
高齢者の骨折・転倒と要介護の関係
高齢者にとって、転倒や骨折は単なる怪我ではなく、介護が必要になる大きな原因の一つです。内閣府の調査によると、介護が必要になった原因の第4位が骨折と転倒であり、特に女性では約15%と高い割合を示しています。
転倒による骨折が介護につながる理由
高齢者が転倒で骨折すると、以下のような複数の理由から介護が必要となる可能性が高まります。
骨折の治癒に時間がかかる: 高齢者の骨は回復力が低下しており、骨折が治るまでに長い期間を要します。
長期の入院や安静: 骨折の部位や状態によっては、長い入院やベッド上での安静が必要となることがあります。
筋力低下と寝たきり: 長期間体を動かせないことで筋力が著しく低下し、寝たきりの状態になるリスクが高まります。寝たきりになると、さらに筋力が衰え、悪循環に陥ることもあります。
生活の質の低下: 身体的なストレスだけでなく、精神的なストレスも大きく、生活の質が低下し、要介護状態へとつながることが少なくありません。
大腿骨頸部骨折の危険性: 特に足の付け根(大腿骨頸部)の骨折は、歩行困難や寝たきりにつながる可能性が非常に高いです。
高齢者が転倒しやすい原因
身体的な要因(内的要因)
筋力やバランス感覚の低下: 年齢とともに筋肉量が減少し、バランスを保つ能力が低下します。
視力・聴力の低下: 暗い場所での視認性の低下や、周囲の状況を把握しにくくなることで、転倒につながることがあります。
骨粗しょう症: 骨がもろくなるため、少しの衝撃でも骨折しやすくなります。特に閉経後の女性に多く見られます。
病気や薬の影響: めまいやふらつきを引き起こす薬の副作用や、認知症、パーキンソン病などの病気が転倒リスクを高めます。
環境的な要因(外的要因)
家の中の段差: 居室や階段、トイレ など、家の中のちょっとした段差でも転倒の原因となります。
滑りやすい床材: 濡れた場所や滑りやすい床材、ラグなどが転倒の原因になることもあります。
照明の暗さ: 足元が見えにくい暗い場所で転倒しやすくなります。
これらの要因が複合的に作用し、高齢者の転倒リスクを高めています。健康寿命を延ばし、介護を必要としない生活を送るためには、転倒・骨折の予防が非常に重要です。
転倒の原因1位~5位
国民生活基礎調査などのデータによると、高齢者の転倒原因の上位には、主に以下のようなものが挙げられます。
1位:つまずき
高齢者の転倒原因で最も多いのは「つまずき」です。これは、わずかな段差や障害物でも足を取られて転倒してしまうことを指します。
床のわずかな段差: カーペットのめくれ、敷居、畳とフローリングの境目など、小さな段差でもつまずきの原因になります。
床の障害物: 電気コード、滑りやすいマット、カーペットの端の折れ曲がりなども、つまずきの原因となります。
すり足歩行: 高齢になると筋力やバランス能力が低下し、足が上がりにくくなるため、すり足で歩くことが多くなり、つまずきやすくなります。
2位:滑り
「滑り」は、つまずきに次いで多い転倒原因です。
濡れた床: 浴室、台所、玄関の濡れた床などで足が滑り、転倒することがあります。
滑りやすい床材: ワックスが塗られたフローリングなど、滑りやすい床材も原因となります。
履物: 滑りやすい履物や、靴底がすり減った靴も転倒につながります。
3位:バランスを崩す
特定の外的要因がなくても、身体が不安定になることで転倒につながるのが「バランスを崩す」という原因です。
筋力低下: 下肢の筋力が低下すると、体勢を維持したり、とっさに立て直したりする能力が弱まります。
バランス能力の低下: 加齢とともに平衡感覚が衰え、ふらつきやすくなります。
姿勢反射の低下: 転びそうになったときに、とっさに手足を出して体を支える反応が遅れることも原因となります。
4位:よろめき・ふらつき
「よろめき・ふらつき」は、バランスの崩れと関連が深く、自覚症状を伴うことが多い原因です。
視力や聴力の低下: 周囲の状況判断が難しくなり、不安定になりやすくなります。
疾患や薬の影響: めまいを引き起こす疾患や薬の副作用によって、一時的に平衡感覚が失われることがあります。
体調不良: 疲労や低血圧なども、ふらつきの原因となることがあります。
5位:不適切な履物や不注意によるもの
「その他」という分類に含められることもありますが、履物の不適合や不注意も転倒の重要な原因です。
履物: サイズの合わない靴、かかとが固定されていないスリッパやサンダルなどは、転倒のリスクを高めます。
不注意・焦り: 急いでいたり、考え事をしていたりする際の不注意や焦りが、転倒につながることがあります。
これらの原因は単独で発生するだけでなく、複数の要因が複合的に絡み合って転倒を引き起こすことが多いです。高齢者の転倒予防には、身体機能の維持・向上、住環境の整備、適切な履物の選択など、多角的なアプローチが重要であると言えます。
高齢者に多い骨折の種類と部位
高齢者の骨折は、骨粗しょう症などで骨がもろくなっているため、わずかな衝撃でも起こりやすく、特に転倒が主な原因となります。これらの骨折は治癒に時間がかかり、寝たきりや要介護状態につながる可能性が高いです。
高齢者に特徴的な4大骨折
高齢者に特に多く見られる骨折は、以下の4か所です。
大腿骨近位部骨折(だいたいこつきんいぶこっせつ)
部位: 太ももの付け根の骨折で、股関節に近い部分です。
特徴: 転倒によって起こることが多く、寝たきりになる可能性が最も高い骨折として社会問題になっています。女性に多く見られ、屋内外問わず発生します。強い痛みを伴い、立ち上がることが困難になります。
脊椎圧迫骨折(せきついあっぱくこっせつ)
部位: 背骨の骨折で、特に腰の骨(腰椎)に多く見られます。
特徴: 尻もちをつくことで起こることが多いですが、骨粗しょう症が進むと、くしゃみや物を持ち上げるなどの日常的な動作でも発生することがあります。痛みを伴わないケースもあり、「いつのまにか骨折」と呼ばれることもあります。進行すると背中が丸くなったり(円背)、身長が縮む原因にもなります。
上腕骨近位部骨折(じょうわんこつきんいぶこっせつ)
部位: 腕の付け根(肩関節の内側部分)の骨折です。
特徴: 転んで肩を直接打ったり、肘や手をついた際に起こります。60歳以上、特に女性に多く見られます。
橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)
部位: 手首の骨折です。
特徴: 転んだ際に手をついた時に多く発生します。中高年の女性に多く見られますが、若い人でもスポーツなどで手を強くついた時に起こることがあります。折れた骨が手の甲側にずれる「コーレス骨折」などが代表的です。
これらの骨折は、骨粗しょう症で骨が脆弱になっていることが背景にあり、転倒によってさらにリスクが高まります。また、骨折する部位によっては、直接力が加わった場所から少し離れた部位が折れることもあります。
その他の骨折の種類
骨折は、どの程度骨が損傷したかによっても分類されます。
完全骨折: 骨が完全に折れてつながりが断たれた状態です。
不全骨折: 骨の一部にヒビが入ったり、一部が欠けたりしている状態です。
脆弱性骨折: 高齢者や骨粗しょう症の患者に多く、わずかな衝撃で骨折してしまいます。上記の4大骨折もこの脆弱性骨折に含まれます。
病的骨折: 腫瘍や転移がんなど、何らかの病気によって骨の強度が低下し、通常では折れないような弱い力で骨折することです。
疲労骨折: 同じ部位に繰り返し負担がかかることで発生し、スポーツ選手に多く見られます。
転倒を予防するためには
高齢者の骨折は、日常生活に大きな影響を与え、健康寿命を縮める可能性があるため、骨粗しょう症のケアや転倒予防が非常に重要です。
転倒予防策の具体的な効果
高齢者にとって転倒は骨折や要介護状態につながる大きなリスクであるため、事前に対策を講じることが重要です。転倒予防策には、身体的な能力を高める運動、住環境の整備、服薬管理などがあり、それぞれ具体的な効果が期待できます。
運動による効果
筋力やバランス感覚の低下は転倒の大きな原因であるため、運動は非常に効果的な予防策です。
筋力向上: 足腰の筋力を高めることで、体全体の安定性が増し、つまずきなどを防ぎやすくなります。
バランス能力の向上: 片足立ちやかかと上げなどの運動は、バランス感覚を養い、不安定な場所でのふらつきを抑えるのに役立ちます。
歩行の安定: きれいな歩き方を身につけることで、つまずきを防ぎ、足腰の強化にもつながります。
柔軟性の維持: 関節の可動域を広げ、転倒時に体を守るための反応をスムーズにします。
環境整備による効果
自宅内の環境を整えることは、高齢者の転倒リスクを大幅に減らすことができます。
段差の解消: 家の中の小さな段差でもつまずきの原因となるため、スロープの設置や段差をなくすことで、転倒事故を予防します。
床の安全性向上: 滑りやすい床材の改善や、滑り止めマットの設置、電気コードなどの障害物の排除で、つまずきや滑りを防ぎます。
明るさの確保: 足元を明るくすることで、視覚情報が明確になり、障害物への注意やバランスの維持に役立ちます。
手すりの設置: 階段や浴室、トイレなどに手すりを設けることで、移動時の安定感を高め、転倒を防止します。
整理整頓: 通路に物を置かない、カーペットの折れ端を直すなど、日頃からの整理整頓が重要です。
服薬管理と健康な食生活
服用している薬の副作用や骨の健康状態も転倒リスクに影響します。
服薬の見直し: めまいやふらつきを引き起こす可能性のある薬を特定し、医師と相談して調整することで、転倒リスクを軽減します。特に複数の薬を服用している場合は注意が必要です。
栄養バランスの改善: 骨粗しょう症などで骨がもろくなると、転倒による骨折のリスクが高まります。カルシウムなど骨を丈夫にする栄養素を意識した食生活は、骨密度の維持に役立ちます。
これらの予防策を複合的に実施することで、転倒による骨折や要介護状態への移行を防ぎ、高齢者が安全で活動的な生活を送るためのサポートとなります。
脆弱性骨折(ぜいじゃくせいこっせつ)の治療法
脆弱性骨折は、骨粗しょう症などで骨がもろくなった状態(骨脆弱性)で、転倒などの軽微な外力によって起こる骨折です。この骨折の治療は、骨折した部位や程度、患者さんの全身状態によって、保存的治療と手術治療が選択されます。
保存的治療
手術以外の方法で骨折を治すのが保存的治療です。ギプスや装具などを用いて骨折部を固定し、自然な骨の癒合を促します。
脊椎(背骨)や骨盤の骨折
多くの場合、コルセットの装着などで保存的治療が選択されます。
しかし、骨の癒合が不十分であったり、神経症状が現れたりする場合には、手術が必要になることもあります。
上肢(腕)の骨折
転位(骨のずれ)が小さい場合などにギプスや装具で治療することが多いです。
ただし、固定期間が長くなると関節の可動域が制限されたり、変形したまま骨が癒合したりする合併症が起こる可能性もあります。
手術治療
骨折の型や状態、患者さんの活動性などを考慮して手術が選択されます。特に、早期に体重をかけて動けるようになることを目指し、手術後すぐにリハビリを開始できるような方法が重要視されます。
大腿骨近位部(太ももの付け根)骨折
高齢者の大腿骨近位部骨折では、手術が行われることがほとんどです。これは、寝たきり状態になることによる合併症(深部静脈血栓症、認知症の進行、誤嚥性肺炎など)を防ぎ、早期の機能回復を促すためです。
骨折した骨を金属でつなぎ合わせる「骨接合術」や、人工物に置き換える「人工骨頭置換術」(または人工股関節全置換術)といった方法があります。
骨折部のずれが少ない場合や比較的若い患者さんでは、金属製のネジなどで固定する骨接合術が、大きくずれている場合は人工骨頭置換術が選択されることが多いです。
骨盤の骨折
通常は保存的治療が中心ですが、骨盤のずれが大きい場合や痛みが強く残る場合は手術が行われることがあります。
骨の弱い高齢者の場合、骨折が増悪して手術が必要になるケースもあります。手術では、少ない侵襲で強固な固定を実現することが重要です。
上肢の骨折
近年、強固な固定が可能なインプラントが開発されたことで、手術の選択肢が増えています。これにより、術後早期からの運動が可能となり、関節の可動域制限などの合併症を減らすことができます。
骨粗しょう症治療と多職種連携
脆弱性骨折の根本的な原因である骨粗しょう症の治療も非常に重要です。骨折の治療と並行して、骨吸収を抑える薬や骨形成を促す薬などが使用されます。
また、高齢者の脆弱性骨折では、生活習慣病や呼吸器・循環器疾患などの合併症を抱えていることが多いため、整形外科医だけでなく、内科医や理学療法士、薬剤師など多職種が連携して治療や術後ケアにあたることが求められます。骨折治療後のリハビリテーションも早期の回復や再転倒・再骨折予防には欠かせません。
二次骨折予防の重要性
一度脆弱性骨折を起こすと、別の部位でも骨折を起こす「骨折の連鎖(ドミノ骨折)」のリスクが高まるため、骨折予防のための骨粗しょう症治療を継続することが非常に大切です。
骨粗しょう症治療の選択肢
骨粗しょう症は骨がもろくなり、骨折しやすくなる病気で、転倒による脆弱性骨折の主な原因となります。骨粗しょう症の治療には、薬物療法と薬物以外の治療があり、患者さんの状態に合わせて最適な方法が選択されます。
薬物療法
骨粗しょう症の薬物療法は、骨吸収を抑える薬と骨形成を促す薬に大別されます。
骨吸収を抑える薬
ビスホスホネート製剤: 骨を壊す細胞(破骨細胞)の働きを抑制し、骨が溶かされるのを防ぐことで骨密度を上げ、骨折リスクを低減します。週に1回または月に1回の内服薬や、数ヶ月に1回の注射薬などがあります。
SERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター): 女性ホルモンに似た作用で、骨吸収を抑える効果があります。特に閉経後の女性の骨密度改善や骨折予防に用いられます。
デノスマブ: 骨吸収を促進するRANKLという物質の働きを阻害する注射薬です。6カ月に1回の注射で高い骨折抑制効果が期待できます。
活性型ビタミンD3製剤: 腸からのカルシウム吸収を促進し、骨形成を助けるとともに、骨密度を維持します。また、筋力やバランス能力の改善にも寄与し、転倒予防効果も期待されています。
骨形成を促す薬
テリパラチド(副甲状腺ホルモン製剤): 新しい骨が作られるのを強力に促す注射薬です。骨形成作用が非常に高いため、重度の骨粗しょう症患者さんに用いられます。毎日、または週に1回自己注射する必要があります。
その他
カルシウム製剤: 食事からの摂取が不足している場合に、補給目的で用いられます。
ビタミンK2製剤: 骨の代謝に関与し、骨質の改善に役立つとされています
薬物以外の治療
食事療法: 骨の健康に必要な栄養素を積極的に摂ることが大切です。
カルシウム: 牛乳や乳製品、小魚、緑黄色野菜などに豊富に含まれています。
ビタミンD: 鮭やイワシなどの魚類、きのこ類に含まれ、カルシウムの吸収を助けます。日光浴によっても体内で生成されます。
ビタミンK: 納豆や緑黄色野菜に含まれ、骨の形成を促します。
運動療法: 骨に適切な負荷をかけることで、骨密度を維持・向上させる効果が期待できます。また、筋力の維持やバランス能力の向上は転倒予防にもつながります。ウォーキングや軽度な筋力トレーニング、バランス運動などがおすすめです。
生活習慣の改善: 禁煙や過度な飲酒を控えることも、骨の健康を保つ上で重要です。
これらの治療法は単独で行われるだけでなく、患者さんの状態やリスクに応じて組み合わせて行われます。骨粗しょう症は自覚症状がないまま進行することが多いため、定期的な骨密度検査を受け、早期に診断・治療を開始することが大切です。
痛みのコントロール方法
痛みのコントロールは、骨折の治療中だけでなく、骨粗しょう症による慢性的な痛みに対しても非常に重要です。適切な痛みの管理は、患者さんのQOL(生活の質)を高め、リハビリテーションをスムーズに進める上で欠かせません。
薬物療法
痛みの種類や原因に応じて、様々な薬が用いられます。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): 炎症を抑え、痛みを和らげます。ただし、長期の使用は胃腸障害や腎機能への影響に注意が必要です。(ロキソニン、ボルタレンなど)
アセトアミノフェン: NSAIDsが使いにくい場合に用いられることが多く、比較的副作用が少ないとされています。(カロナールA、タイレノールA、ノーシンアセトアミノフェンなど)
弱オピオイド・強オピオイド: 強い痛みに対して使用されますが、便秘や吐き気などの副作用に注意し、医師の厳重な管理のもとで使用されます。(コデイン、トラマドール)(モルヒネ)
神経障害性疼痛治療薬: 骨折後の神経損傷などが原因で起こる、しびれやチクチクとした痛みに効果があります。(リリカ、タリージェなど)
筋弛緩薬: 筋肉の緊張による痛みを和らげるために使用されることがあります。(ミオナール、テルネリンなど)
骨粗しょう症治療薬: 骨折による痛みだけでなく、骨粗しょう症そのものによる背中の痛みなどにも、骨粗しょう症の治療薬を継続することで痛みが軽減されることがあります。
薬物以外の治療
薬物療法と併用して、以下のような治療法も痛みのコントロールに役立ちます。
温熱療法・寒冷療法: 温めることで血行を促進し痛みを和らげたり、冷やすことで炎症を抑えたりします。
電気療法: 低周波治療などで疼痛を緩和します。
マッサージ: 筋肉の緊張をほぐし、痛みを軽減します。
装具療法: 骨折部位や痛む部位を固定するコルセットやサポーター、足底板などを用いることで、負担を軽減し痛みを和らげます。
リハビリテーション: 専門家の指導のもと、痛みを悪化させない範囲で、運動機能の回復を目指します。筋力強化やバランス訓練は、動くことへの不安を減らし、痛みの悪循環を断ち切るのに役立ちます。
神経ブロック: 痛みを伝える神経の経路を一時的に遮断することで、痛みを軽減します。
心理的アプローチ: 慢性的な痛みは精神的な負担も大きいため、カウンセリングや認知行動療法などを通じて、痛みに対する考え方を変えたり、ストレスを軽減したりすることも重要です。
自己管理と生活習慣の改善
日々の生活の中で痛みを管理し、軽減するための工夫も重要です。
無理のない範囲での活動: 痛みが強い時は安静にし、痛みが落ち着いたら少しずつ体を動かすようにします。
規則正しい生活: 十分な睡眠やバランスの取れた食事は、全身の健康状態を良好に保ち、痛みの感じ方を和らげることにもつながります。
栄養バランスの取れた食事:特に、骨の健康を維持するためのカルシウム、ビタミンD、ビタミンKを含む食品を積極的に摂取することが推奨されます。これらの栄養素は、骨の回復を助け、痛みの軽減にも間接的に寄与することがあります。
カルシウム: 牛乳、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品、小魚、大豆製品、緑黄色野菜など。
ビタミンD: 鮭、イワシなどの魚類、きのこ類。日光浴もビタミンD生成に効果的です。
ビタミンK: 納豆、ほうれん草、小松菜、ブロッコリーなど。
控えめにする食品: 塩分が多いインスタント食品や加工食品、カフェインを多く含む飲み物、アルコール、糖分の多い食品などは、カルシウムの吸収を妨げる可能性があるため、摂取を控えめにすることが望ましいです。
適度な運動: 骨に適度な負荷をかけることで骨の強化につながり、痛みの軽減効果も期待できます。ただし、痛みが強い場合は無理せず、医師や理学療法士に相談しながら行いましょう。
痛みの感じ方は個人差が大きいため、医師や薬剤師、理学療法士などの専門家と相談しながら、ご自身に合った最適なコントロール方法を見つけることが大切です。
骨折の予後について
骨折の予後は、骨折の種類や部位、重症度、患者さんの年齢や健康状態、そして治療後のリハビリテーションの進捗によって大きく異なります。特に高齢者の場合、骨折は日常生活に大きな影響を与え、時には生活の質を著しく低下させることがあります。
早期の回復と機能改善
適切な治療と早期のリハビリテーションによって、多くの骨折は治癒し、身体機能の回復が期待できます。特に外傷性の骨折で、骨が丈夫な若年者の場合は、比較的良好な予後が見込まれます。しかし、高齢者の場合は、骨の回復力が低下しているため、治癒に時間がかかり、もとの生活レベルに戻るのが難しいことも少なくありません。
後遺症と合併症のリスク
骨折の後、以下のような後遺症や合併症が残ることがあります。
痛み: 骨折した部位や周囲に慢性的な痛みが残ることがあります。特に神経を損傷した場合は、しびれや神経痛が続くこともあります。
機能障害: 骨折部位の関節の動きが悪くなったり(可動域制限)、筋力が低下したりして、以前のように体を動かせなくなることがあります。
変形: 骨折がうまく癒合しなかったり、手術で完全に元の形に戻せなかったりした場合、骨が変形したまま治ることがあります。
二次骨折: 特に骨粗しょう症が原因の脆弱性骨折の場合、一度骨折すると、別の部位でも骨折を起こすリスクが高まります(骨折の連鎖)。
高齢者の大腿骨近位部骨折では、寝たきりになるリスクが高く、肺炎や褥瘡(じょくそう)などの合併症を引き起こし、生命予後にも影響を与えることがあります。
生活の質の変化
骨折は、患者さんの生活の質に大きな影響を与えます。
活動性の低下: 痛みが残ったり、身体機能が低下したりすることで、趣味や社会活動への参加が難しくなることがあります。
精神的影響: 骨折による身体的な苦痛だけでなく、活動制限や将来への不安から、抑うつ状態になることもあります。
介護の必要性: 特に高齢者の脆弱性骨折では、介護が必要となる原因の3位に骨折が入っており、日常生活に支援が必要となるケースが多く見られます。これにより、患者さんだけでなく、家族の負担も増えることになります。
予後を良好にするために
骨折の予後を良好にするためには、以下の点が重要です。
早期診断と適切な治療: 骨折の種類や状態に合わせた最適な治療を早期に開始することが大切です。
徹底したリハビリテーション: 医師や理学療法士の指導のもと、積極的にリハビリテーションに取り組むことで、機能回復を最大限に引き出すことができます。
骨粗しょう症の管理: 脆弱性骨折の場合は、骨粗しょう症の診断と治療を並行して行うことで、再骨折のリスクを減らし、骨の健康を維持することが重要です。
栄養管理と生活習慣の改善: 骨の健康をサポートする栄養バランスの取れた食事や、転倒を予防する生活習慣の改善も、予後を良好にするために不可欠です。
現在のところ、多くの患者さんは骨折治療後に順調に回復し、通常の生活に戻ることができています。しかし、特に高齢者の場合は、骨折をきっかけに生活が一変することもあるため、事前の予防と、骨折してしまった場合の丁寧な治療とサポート体制が非常に重要です。
転倒予防の「多角的アプローチ」とは、単一の対策だけでなく、複数の異なる側面から転倒リスクを評価し、それに応じた介入を包括的に行う方法を指します。高齢者の転倒は、さまざまな要因が複雑に絡み合って起こるため、一つの原因にだけ着目するのではなく、身体的要因、環境要因、心理的要因など、多角的にアプローチすることが最も効果的だと考えられています。
これらの多角的なアプローチは、医師、理学療法士、看護師、薬剤師、栄養士、ケアマネージャーなどの専門職で集まり(サービス担当者会議)、多職種の連携によって効果的に進められます。個々の高齢者の状態や生活環境に合わせたオーダーメイドの転倒予防プログラムを計画し、実行することが、健康寿命の延伸につながります。