
車椅子の選び方
車椅子を選ぶ際は、利用する方の身体状況や使用目的、使用環境に合わせて、適切な種類とサイズを選ぶことが大切です。クッションも車椅子での快適性を高めるために重要なアイテムです。
車椅子の種類
車椅子には様々な種類があり、利用する方の状況によって最適なものが異なります。
自走式車椅子:利用する方が自分でハンドリムを操作して動かすタイプです。手足を使って操作できる方や、自分で移動したい方に適しています。介助者が後ろから押して動かすこともできます。
介助式車椅子:介護者が押して動かすタイプで、自分で操作できない方に適しています。自走式よりも後輪タイヤが小さく軽量で、コンパクトなため持ち運びにも便利です。狭い場所での利用や車への積み込みに適しています。
電動車椅子:電動モーターで動くため、手元のレバーやボタン操作で楽に移動できます。自分で操作できるものの体力に自信がない方などに適しています。バッテリーを搭載しているため重量は重くなります。
ティルト・リクライニング車椅子:背もたれと座面が連動して角度調整できるティルト機能や、背もたれが倒れるリクライニング機能がついています。体圧を分散し、床ずれ予防に効果的で、長時間車椅子で過ごす方や長時間の座位保持が難しい方におすすめです。
モジュール車椅子:座面幅や座面高、アームレストやハンドルの高さなど、各パーツの調整ができる車椅子です。体型や身体状況の変化に合わせて微調整できるため便利です。
身体状況と利用者の能力
まず、利用者の身体の状態を確認することが大切です。
身体に合ったサイズ
身体に合わない車椅子は、座り心地が悪くなるだけでなく、身体への負担や事故につながる可能性があります。
座面幅:利用する方のお尻の幅に3~5cmプラスしたサイズが目安です。広すぎると体幹が不安定になり、狭すぎると圧迫感が生じます。介助式の場合は、介助者が移乗の際に手を入れられるスペースも考慮します。
前座高(座面の高さ):膝下からかかとまでの長さを測り、適切な高さの車椅子を選びます。高すぎると深く座れず、低すぎると立ち上がりにくくなります。足こぎで移動する場合は、足がしっかりと地面につく高さが重要です。
背もたれの高さ:座面から脇の下までの高さに7~10cmプラスしたものが目安です。円背や腰痛がある場合は、背もたれの張りを調整できる車椅子を選ぶと、身体の形状に合わせやすくなります。
体重(耐荷重):利用する方の体重に合った耐荷重の車椅子を選びましょう。
操作能力
利用する方が自分で操作するのか、介助が必要なのかによって選ぶ車椅子のタイプが異なります。
自走式:自分でハンドリムを操作して移動できる方向けです。介助者の介助も可能です。
介助式:介助者が押して移動するタイプで、利用者が自分で操作できない場合に適しています。軽量で小回りが利くものが多いです。
電動式:モーターで動くため、少ない力で操作できます。自走が難しい方や、長距離移動が多い方、坂道が多い場所での使用に適しています。
使用目的と環境
どこで、どのように車椅子を使用するのかも重要なポイントです。
屋内での使用:家の中など狭い場所で使う場合は、小回りが利くコンパクトなタイプが便利です。6輪車椅子は、狭い廊下でもスムーズに移動できます。
屋外での使用:舗装されていない道や長距離を移動する場合は、タイヤの大きい自走式車椅子の方が安定性があり、振動も少ないです。短距離の移動や舗装された道であれば、介助式のようなタイヤの小さいタイプでも問題ありません。
持ち運びの頻度:車に積んだり、公共交通機関を利用したりと、持ち運びが多い場合は、軽量で折りたたみ機能がある車椅子がおすすめです。特に「背折れ式」の車椅子は、コンパクトに折りたためるので積載に便利です。
利用時間:長時間座る場合は、乗り心地の良さが重要になります。クッションシートや背もたれの調整機能があるもの、体圧分散に優れたクッションの利用も検討しましょう。
機能性
快適性や介助のしやすさを高めるための機能も確認しましょう。
移乗のしやすさ:フットサポート(足台)やアームレスト(肘掛け)が跳ね上げ式(スイングアウト)や取り外し可能だと、車椅子への乗り降りがスムーズになります。
姿勢保持:体幹が不安定な方や、前ずれしやすい方には、背面のベルト調整ができる車椅子や、ティルト・リクライニング機能付きの車椅子が適しています。
介助者の負担軽減:介助ブレーキ付きの車椅子は、介助者が速度調整をしやすく、坂道などでの負担を軽減できます。また、フットサポートが邪魔にならない構造の車椅子は、介助者の腰への負担も軽減します。
素材
車椅子の素材は、耐久性や重量、快適性に影響を与えます。
アルミニウム:軽量で取り扱いやすく、錆びにくいため、屋内外での使用に適しています。
スチール:丈夫で耐久性に優れていますが、重く錆びやすいため、主に施設内での使用に適しています。
チタン:非常に軽量で強度も高いですが、高価です。
カーボンファイバー:最軽量で高性能なタイプで、活動的な利用者に向いています。
車椅子クッションの選び方

車椅子クッションは、快適な座り心地を提供するだけでなく、床ずれ(褥瘡)の予防や、良好な姿勢の維持にも重要な役割を果たします。
クッションの役割と効果
体圧分散:臀部にかかる圧力を分散させ、床ずれのリスクを軽減します。特に座骨部分への圧力が集中しないように、スムーズに沈み込むクッションが理想的です。
姿勢保持:座位が不安定な方の骨盤をサポートし、安定した姿勢を保ちやすくします。前ずれを防ぐ形状のクッションもあります。
快適性:座り心地を向上させ、長時間の利用による疲労を軽減します。
クッションを選ぶ際のポイント
使用目的:快適性を重視するのか、体圧分散や姿勢保持を重視するのかによって、選ぶクッションの種類が変わります。
素材:様々な素材があり、それぞれ特徴が異なります。
高反発ウレタン:体圧をしっかり支え、沈み込みすぎずに姿勢を安定させるのに適しています。通気性に優れているものもあります。
低反発ウレタン:体に沿ってゆっくりと沈み込み、体圧を分散させる効果が高いです。
ジェル:体圧分散性に優れ、お尻の痛みや疲れ対策にも効果的とされます。
エア(空気):空気の量で硬さを調整できるタイプもありますが、日常使いには不向きな場合もあります。
ポリエステルわた・フェザー・ビーズ:これらは主に一般的なクッションで使われる素材で、軽さ、柔らかさ、フィット感などに特徴があります。
サイズと形状:椅子の座面内側に収まるサイズを選び、クッションが折れ曲がらないようにすることが大切です。厚すぎるクッションは、フットレストやアームレストの高さに影響を与える可能性があるため、クッションを決めてから車椅子を選ぶという方法も有効です。
機能性:通気性が良いもの、カバーが洗濯可能なもの、滑り止め機能があるものなども、清潔さを保ち、使いやすさを向上させる上で重要です。
疾患別のおすすめ機能
車椅子を選ぶ際には、利用される方の疾患によって必要となる機能が異なります。ここでは、疾患別に特におすすめの車椅子機能をご紹介します。
麻痺や筋力低下がある場合
片麻痺者用車椅子
脳卒中や脳梗塞の後遺症などで片側に麻痺がある方や、片手片足しか動かせない方には、片手で操作できる「片麻痺者用車椅子」がおすすめです。これにより、ご自身で移動できる範囲が広がり、自立支援につながります。
電動車椅子・電動アシスト車椅子
筋力が弱く自力での操作が難しい場合:電動車椅子は、モーターの力で走行するため、少ない力で操作が可能です。
介助者の負担を軽減したい場合:電動アシスト機能付きの介助式車椅子は、介助者が少ない力で坂道やスロープを移動できるため、介助者の負担を大きく減らせます。
姿勢の保持が難しい場合
ティルト・リクライニング車椅子
長時間座ることが難しい方や、自分で姿勢を変えることができない方には、「ティルト・リクライニング車椅子」が非常に有効です。
ティルト機能:座面と背もたれの角度を保ったまま全体を傾ける機能で、お尻にかかる体圧を腰や背中に分散させ、床ずれの予防につながります。
リクライニング機能:背もたれの角度を倒す機能で、体圧分散に加え、座位の負担を和らげ、より楽な姿勢を保てます。
これらの機能は、長時間車椅子で過ごす方や、安定した姿勢を保ちながら使えるためにおすすめです。
モジュール車椅子
体型や身体状況の変化に合わせて、座面幅や座面高、アームレストやハンドルの高さなどを細かく調整できる「モジュール車椅子」も良い選択肢です。座位の保持がしづらく、車椅子乗車時に姿勢が崩れやすい方には特におすすめで、リハビリテーションにも有効です。
認知症の場合
自動ブレーキ機能付き車椅子
認知症の方でブレーキ操作を忘れてしまう可能性がある場合、立ち上がると自動でブレーキがかかり、転倒を防いでくれるタイプの車椅子が安全です。
移乗を頻繁に行う場合
アームレスト跳ね上げ・フットサポート開閉(または着脱)機能
車椅子からベッドやトイレなどへの移乗が多い方には、アームレストが跳ね上げられたり、フットサポート(足置き)が横に開いたり、取り外せる車椅子が便利です。これにより、移乗時の介助者の負担が減り、利用者もスムーズに乗り移ることができます。
その他の調整機能
背もたれの張り調整機能
円背や腰痛がある方など、背もたれの形状が合わずに苦痛を感じる場合は、背もたれの張りを細かく調整できる車椅子を選ぶと、身体の状況に合わせやすくなります。
ヘッドサポート
首の負担を軽減し、楽な姿勢を保つためには、角度調整が可能なヘッドサポート付きの車椅子も有効です。
レンタルと購入どちらが良い?
車椅子のレンタルと購入にはそれぞれメリット・デメリットがあります。使用期間、身体状況の変化、費用などを考慮して、最適な方法を選ぶことが大切です。
レンタルのメリット
車椅子をレンタルする最大のメリットは、初期費用を抑えられることです。介護保険が適用される場合、レンタル料金の1〜3割の自己負担で利用できます。
費用負担の軽減:購入すると高額になりがちな車椅子(特に電動タイプ)も、レンタルなら月々数百円から利用できる場合があります。介護保険が適用されれば、さらに費用を抑えられます。
定期的なメンテナンス:レンタル業者による定期的な点検や修理サービスが受けられるため、故障や不具合の際も安心です。通常使用での故障は無償対応のことも多いです。
身体状況の変化に対応可能:利用者の身体状況に合わせて、車椅子の種類を変更したり、調整してもらったりすることが可能です。
処分の手間がない:不要になった際に返却するだけで済むため、保管場所や処分の心配がありません。
専門家のアドバイス:ケアマネジャーや福祉用具専門相談員が、利用者の状況に最適な車椅子を提案し、フィッティングや使い方をサポートしてくれます。
購入のメリット
車椅子を購入するメリットは、主に以下の点が挙げられます。
自分の所有物になる:新品を選ぶことができ、自分専用の車椅子として愛着を持って使用できます。
長期間使用すると割安になることも:同じ車椅子を長期的に使用する場合、レンタルよりも総費用が安くなる可能性があります。
自由に使える:自分のものなので、レンタルのような利用規約に縛られず、遠慮なく使えます。また、必要に応じて加工することも可能です。
介護保険の対象外でも利用可能:介護保険の適用条件に合わない場合でも、購入であれば自由に車椅子を使えます。
レンタルか購入かを選ぶ基準
車椅子が必要な期間や、利用者の身体状況の変化が予想されるかどうかによって、レンタルと購入のどちらが良いかは変わります。
短期的な利用:ケガなど一時的に車椅子が必要な場合や、短期間のリハビリで使用する場合はレンタルが適しています。
長期的な利用:同じ車椅子を長期間にわたって使用する場合は、購入を検討した方が良い場合があります。
身体状況の不確実性:身体状況の変化が見込まれる場合は、柔軟に交換できるレンタルの方が適しています。
介護保険の利用:介護保険が適用される要介護認定を受けている場合は、費用を大幅に抑えられるレンタルが有利です。